生物学的利用率

「食べる物ではなく吸収するもので体はつくられる」

ビタミンEの輸送は、長い間、α-トコフェロールが中心とされてきました。これは、α-トコフェロールがα-トコフェロール輸送タンパク質(α-TTP)と高い親和性を有するためです。一方、トコトリエノールはα-TTPに対する特異的親和性を持たないため、α-トコフェロールほど研究されてきませんでした。α-トコフェロールの存在がトコトリエノールの取り込みを妨げるとされていたのです。ところが、α-TTPノックアウトマウスを使用した動物試験で、α-TTPがなくてもトコトリエノールが重要器官に輸送されることが示されました[1]。また、ほかの脂溶性ビタミン類や植物栄養素(A、D、K、トコフェロール、カロテノイド)と同様に、経口補給したトコトリエノールは吸収性が低く、吸収にばらつきがあります。さらに、胆汁とリパーゼが安定して適切に分泌されているかどうかも、トコトリエノールの吸収に影響を及ぼします。トコトリエノールの各アイソフォームの絶対吸収率はいずれも低く、不規則で不安定なことから、生物学的利用率(経口摂取したトコトリエノールの吸収)と生物効率(重要器官におけるトコトリエノールの蓄積)の改善に向けて、トコトリエノールが血流に比較的良く吸収されることが重要です。そうすれば、トコトリエノールの持つ利点を最大限引き出すことができます。

Yapらは、トコトリエノール(α-、γ-、δ-トコトリエノール)を経口補給した場合と静注投与(IV)した場合の薬物動態と生物学的利用率を比較する研究を行い、トコトリエノールの吸収が溶媒となる油の種類と量によって左右されることを報告しました。

さらに、同研究者グループは、トコトリエノールを静脈内投与した場合、α-、γ-、およびδ-トコトリエノールの生物学的利用率はそれぞれ27.7%、9.1%、および8.5%であったと報告しています。これにより、油から抽出した普通のトコトリエノールを摂取した場合、トコトリエノールの吸収性は低く、不安定で不完全であることがはっきりと証明されました。トコトリエノールの吸収は、ビタミンEの溶解性、乳化プロセスに必要な胆汁の分泌量、そして膵酵素による脂肪分解作用と関連しています。したがって、生物学的利用率を向上させるためには、コロイド分散系のトコトリエノール製剤が不可欠となります。そこで、YapとYuenはさらなる研究に取りかかり、トコトリエノールの生物学的利用率の低さを克服する自己乳化型送達システム(SEDS)テクノロジー「スープラバイオ(SupraBio)™」システムを開発しました。

この試験では、12名の男性志願者を募集し、そのうち6名にはバイオ強化したSEDSのトコトリエノール製剤(スープラバイオ™)を経口補給し、別の6名にはSEDS以外のトコトリエノール製剤を補給しました。摂取後24時間にわたり2時間ごとに血液検体を採取し、α-、γ-、およびδ-トコトリエノールの血漿中濃度の分析を行いました。その結果、SEDS以外のトコトリエノールを空腹状態で摂取した場合に比べ、SEDSのトコトリエノール製剤/スープラバイオ™では以下が認められました:

  • α-、γ-、およびδ-トコトリエノールの最高血漿中濃度(Cmax)が有意に高かった(最大で平均250%)。
  • 最高血漿中濃度到達時間(Tmax)が短かった。
  • トコトリエノールの生物学的利用率が2~3倍高まった。

SEDSのトコトリエノール製剤/スープラバイオ™とSEDS以外のトコトリエノール製剤をそれぞれ200 mg経口補給した後のα-、γ-、およびδ-トコトリエノールの平均血漿中濃度は、以下のグラフの通りです[2]。

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これらをまとめると、SEDS以外と比較したSEDS/スープラバイオ™固有の特性は以下の通りとなります。

  1. トコトリエノールの吸収が脂質の摂取に左右されない。
  2. リンパ系を通じたトコトリエノールの吸収を促進する。
  3. トコトリエノールが確実に素早く血液中に運ばれる。
  4. 安定的に素早く吸収される。
  5. 各トコトリエノールの吸収性が平均250%上昇し、比較的少ない量で有効な血漿中濃度を達成できる[3]。

興味深いことに、実際のヒト組織における分布について調査した史上初にして唯一の試験がオハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの研究者らによって実施されました。米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて行われたこの試験では、経口補給したトコトリエノールの良好な吸収と、脳、肝臓、心臓、皮膚、および脂肪組織などの重要器官や組織への効率的な輸送を実証しています[4]

参考文献

  1. Khanna et.al (2005). Delivery of orally supplemented α-tocotrienol to vital organs of rats and tocopherol-transport protein deficient mice.Free Radical Biology & Medicine 39; 1310-1319.doi:10.1016/j.
  2. Yap SP, et al. (2001). Pharmacokinetics and bioavailability of α-, γ- and δ-tocotrienols under different food status.Journal of Pharmacy and Pharmacology, 53, 67-71.
  3. Yap SP, et al. (2003). Influence of route of administration on the absorption and disposition of alpha-, gamma-, and delta-tocotrienols in rats.Journal of Pharmacy and Pharmacology, 55, 53-58.
  4. Patel V, et al. (2012). Oral Tocotrienols are transported to Human Tissues and Delay the Progression of the Model for End-Stage Liver Disease Score in Patients.The Journal of Nutrition, 142(3), 513-9.